閑 話 




さあ困った。


つい昨日想いを確かめあった二人が
いつものように誰よりも近い生活をして
何を困ることがあるだろう
実際問題、小さなことだ






(〜〜き、緊張するっ)
由太郎は腕に制服のシャツを掛けたまま固まっていた。すぐ傍にいる魁はこれもまた、服を持ってぎこちなく佇んでいる。
いつもなら起きて顔を洗って食事をして、同じ行動で朝の支度をぱっぱとこなす。
この何年もつづけられた一つのズレもない生活が今日はほんの少し、とまっていた。

―――相手の前で服が脱げない


いつもなら寝間着をさっさと脱いでしまえていたのに
ましてや夏場など、由太郎はほとんど下着姿で過ごすことも珍しくない。
なぜあんなことをして恥ずかしくなかったんだろう。
自分の貧相な体を、どうしてあんな惜しみもなく晒したりできたのだろう。
思い返すと羞恥心がぶり返して、寝間着の前を開けることすらままならない。
魁は魁で、その緊張が移ったのか、由太郎に視線をあわせられない。

このままでは遅刻してしまう


病気でもないのに朝練は愚か授業に遅れて学校に赴くなど言語道断
魁はふうっと息を吐いて、吸い、寝間着の紐に手をかけた。
それに気付いた由太郎がおそるおそる魁を見上げる
しかし魁の視線はこちらになかった。


「背を向いているから、早く着替えろ。」
魁の心遣いだった。
が、由太郎は慌てて魁の前へ回り込んだ。
「せ、背中はもっとやだっ。」

由太郎が魁の背中を嫌う理由を、魁にはわかっていた。
しかし対面で着替えるのには勇気がいる。
どうしたものかと眉を寄せた魁を、由太郎は慌てて覗き込んで言う。

「じゃあ、さ、並んで着替えよ!」

かくして広めの部屋で、男兄弟が平行してかつ相手を視界に入れないように着替える方法が一週間続いた。



実を言うとこの気まずい沈黙は、昨夜の就寝前にも起きた。
風呂上がりでお互いの体温が普段より上昇し、すぐそばにある温もりが普段より強く感じられる時、
並んで敷かれた布団に入り込むまでどれだけの時を食ったか。




この初々しいもどかしさがしばらく二人の行動にかなりの邪魔をいれることを
あの夜は覚悟していなかったといえよう。















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