僕の友達は自分の兄を慕っている
先日、その想いが遂げられたと、聞いた











「沖い、帰り兄ちゃん待ってんのつき合ってくれよ。」
「やだ…っていうか…今さらじゃん。」
考慮してやる間もなく断ると、今にも泣きそうな由太郎が机に突っ伏して沈んだ。
待ち合わせにつき合えなど、由太郎らしくない発言だ。
何を今さらそうまで照れることがあるのだろう。
普段どおり、乱暴に開けた部室の向こうで忠犬のように先輩がでてくるのを待てばいいことじゃないか。
大体それにつき合って、それから僕はどうすればいい。
馬に蹴られるのは嫌だし、あてられるのはもっと御免だ。


昼ご飯もそっちのけでうだうだと何かを呟いては、ため息をはくことを繰り返している。そんな由太郎の姿を見て自分はなんだかもっとやる気のない気分になってしまった。これ以上この状態が続くなら、部活用にとっておいた最後の気力も全部持っていかれてしまう。
いっそ今日はさぼってしまおうか、とか不穏な考えを浅くかすめて、食べ終わったパンの袋をぐしゃぐしゃと丸め放り込もうと腰を少し浮かした時
窓の外をちらりと見た。
あの印象的な後ろ姿が体操着で歩いていた。
「…村中先輩。」
「兄ちゃん!?どこ!?」



由太郎は僕の体に半分乗った状態で窓に張り付いた。
―――重たい。不機嫌はマックス。僕の心情なんて気にも止めてない由太郎は、その大きな眼いっぱいに広げて
グランドに移動する先輩の背中をひたすら、一秒でも長くと見つめ続けていた。
「…声かけないの」
「ん…。」
「……。」
あんまりにも殊勝な態度に、恋って恐ろしい、なんて臭い考えをした。
由太郎は頬を可愛らしく染めながら、なにか葛藤するような複雑な表情をしている。
おそらくは声をかけたい衝動と、恥ずかしさが交差しているのだろう。
いつものことではないか。窓の外に向かって、大きな声で先輩を呼ぶ。
それがなんで今日できなくなってる





「だってさ、何か違うんだ。兄ちゃんが好きで好きでたまんなくって、それまでは気付いて〜〜って感じだったんだけど。おかしいんだよ。いざ…り、両想いになると、もう恥ずかしくって恥ずかしくって、こっち見ないで!て、なる。」

「いまでもその…両想いなんだって思うだけで、教室駆け回りたくなるぐらい幸せなのに。」

「沖、俺どうしよう。こんな自分やだなあ。」

教室にいる間にあてられてしまった。
自分は不機嫌になりつつも、しかしこの不慣れな色恋に真剣に悩んでる友人が俺にはとても可愛くて。
つっぷしたままの頭を叩きながら、待ち合わせにはつき合ってあげれないけど先輩が部室の鍵を閉めるまでは一緒にいてあげるからあとは自分で頑張れというと、すこし安心した声でうん、といった。


―――自分はどうしてこんなにまっすぐに立てないのだろう。
こんなに可愛らしくならない、きっとどんなに熱くなるような恋をしても。
相手に素直になれないばかりで、嫌われたくなんかないのにこの口から出てくる言葉自分の思いとまったく逆なことばかり言ってしまう。
携帯をポケットの上から触れて、離す。せめて文章の上だけは。
しかしいつもうまくいかない。

「由太郎は、先輩が好き?」
「え、あ、えっうん。」
由太郎はかっと一気に頬を染めて、しかし照れくさそうに笑って言った。

「だいすき。」



きっと好きになってくれる。
こんなに素直に、真っすぐ人を見つめることができれば。

「あっ、なあ沖。昨日うどん先輩探してたよ。帰る約束してたんじゃないの?」

自分の言葉は
自分の行動は
相手を傷つけるばかりで何一つ素直になれない
何一つ相手に伝えることができない

じんわりと広がるみじめな気持ちを、あの人は汲み取って笑ってはくれないだろうか。
どこまでも他人まかせ。


「ユタ、今から先輩走るみたいだよ。」
「え、マジっ」

キラキラの眼でまっすぐ大好きな兄を見つめる由太郎をいつだって羨ましく思う。
好きです あなたをみれるだけで幸せです
由太郎を纏う柔らかい空気は、言葉には出さずともなんとも素直な



「ユタ」
相手を傷つけるだけの恋愛なんて望んでない
僕だってユタみたいに、一つだけでいいから素直になりたいとこがある
携帯を開いて、受信メールの山をひとつひとつ開く
あんなに素直で感情に正直な人を、好きになった僕が悪いんだ

「俺、好きな人がいる。」



由太郎は、一緒に帰ろうって、どうやって誘うんだろう。








懸想立つ












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