薄い少し荒れた唇が、ふわっと降りてくる。
自分の耳には心臓が付いたみたいにうるさくて熱くて
あの不確かな感触が自分の唇にやってくるまでの間中それにぐっと耐える
小さく、小さく、触れあったそれは、キスと呼ぶにはあまりにも拙い
本当にそれがくっついているのか疑問なくらい
だけど眼を開けて確かめることなど到底できそうになかった。
繋がっている時間は短く、ぱっと離れると
お互いがうだった顔を見せないように、由太郎は俯き、魁は天井を仰ぐ。
そして照れくさそうに笑いあう



想いを伝えて半月、まだ慣れぬ幼いそれは
愛しさのあまり人の眼を盗んで繰り返す両親を裏切る行為
それでも、わずかな罪悪感とともに噛み締めるこれ以上ない喜びがあった





「俺、これ、好き。」
由太郎のか細いつぶやきに、魁はさらに頬を赤く染めた。
「もっといっぱいできればいいのになあ。」
「それでは由太郎の心臓も拙者の心臓も持たぬ。」
「へへ、そうだね。」
由太郎が魁の胸に顔を寄せる。
魁はその頭を、大切なものに触れるかのようにそっと撫でる。
自分達は仲の良いことで評判だった
しかし今この場を見られたら、もしそれが両親であっても
誤解とはいかなくても疑心を持たせてしまう。
そうなれば、今度こそ部屋を分けられるかもしれない―――と由太郎は、数年前の出来事を思い出した。



「俺が小学生に入学した時、部屋を別けようって言われたこと覚えてる?」
「うん?」
「俺大泣きしたんだよ。兄ちゃんと離れるのやだって。」
魁の息がふっと由太郎の頭を霞めた。
魁は柔らかく笑い、覚えている、と懐かしそうに言った。
「親父殿のげんこつを食らっても我侭を止めなかったのはあれが初めてだったな。」
厳格な父親の元に生まれてきたからには、少々手荒な躾は覚悟しなければならない。
由太郎は魁ほど聞き分けが良くなかったが、最後に父親の得意の拳を落とされると渋々言うことを聞いていた。
「せっかく同じ学校に入って、追い付いたと思ったのにまたバラバラにされちゃうかと思った。」


魁の手は止まることなく由太郎の頭をなで続ける。
由太郎は気持ち良さに目を細めながら、思い出をさかのぼっていく。
あの頃の想いはとてもきれいで、どこまでも純粋に兄を慕っていた。
今は―――…今?



「この部屋は広いけど、兄ちゃん、二つ布団を敷いたら狭くなるよね。」
「うん?」
「兄ちゃん、俺ずっとずーっと兄ちゃんと同じ部屋でもいいかな?」
「何を今更。」
「ずーっとずーっと、俺が大っきくなってもっと背が伸びたって」
「部屋だけか?」
部屋だけか
まさか


そういつのまにか俺の純粋な想いは、後ろめたくなるようなややこしいものに変わっていた。
兄ちゃんの腰に腕を回して、うつ伏せた状態で額をなんども擦り付けた。
兄ちゃんは二度三度、俺の頭を丸く撫でてすっと手が頬に触れる
そこから輪郭を薄くなぞり、ああ、珍しく2回目のキスがくるんだと思った。
指先が首先をなぞっていく感触にぞくりと震える。


大好き。










「もしかしたら、兄ちゃんを好きになるように生まれてきたのかもしれないよ。」
「ならば、拙者はお前を守る為に生まれて来たのかもしれぬな。」
初めて唇が触れた後でも目を合わすことができた。
部屋だけなんてつもりじゃないよ
キスは相変わらずうすーく触れるだけだけど
相変わらず恥ずかしくって、すぐには大事なことも言えないけど




ずっとずーっとずーっと

これから先も








籠鳥雲を嫌ふ





















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送