「兄ちゃん、一緒に寝ない?」
「まだ日が高いぞ。」
真昼と呼ぶには、少し過ぎたPM3:30
冬の空はドンと重く、窓ガラスを強く叩く風が隙間から侵入して窓際は肌寒い。
旧式の灯油ストーブがカンカンとうなりを上げる

冬で、部屋は温かくて、電気をつけるにはまだ早い薄暗さ。
腹には間食代わりに食べた餅で満腹で気分はよくて、最高に眠たい。

「ちょっと眠いんだ、昼寝しようよ。」
「夕飯時になったら起こしてやる。一人で寝ていろ。」
「えーやだよ、寒いじゃん?」
「布団を敷け。」

冷たいわけじゃない、言葉の端々には愛がある(俺には解る)
ただ課題に集中している兄ちゃんはそれを全部やりきらないと机から離れないことは解ってる。自分の大好きなとてもまっすぐな性格。俺はあんまり似てないなあと、昼寝を優先させてしまうこんな時常々思う。
両親からは、容姿ガタイはともかく根本的な性格はそっくりだとよく言われるけど、みんなわかってない。
ふっと短くため息をつくと、兄ちゃんの手が少し止まった。



「由太郎、別な部屋に移るか?」
「ううん、ここにいるよ。」
「まだしばらくかかる。」
「うん。」
「眠るか?」
「待つよ。」
鉛筆の速度が、少し早まった。

「すぐ終わらせよう。」

その言葉を聞いて、俺は嬉しくて兄ちゃんにはどうせ見えないけどもおもいっきり微笑んだ。夕飯は7時。数分後手に入る温もりに思いを馳せて、どうせなら今日父ちゃんと母ちゃんでかけないかな、など都合のいい願い事をしていた。

そろりそろりと背中を合わせる。
温もりのつまみ食い。

自分との背中の接触に気付いた兄ちゃんは、一瞬身じろきをしたが邪魔だと追い払われる事は無かった。
背中が温かい。触れた所から溶けて繋がってしまえばいいのに。
問題ないよね、なにしろ同じ血が通ってる。

ねえ?

ちらりと兄ちゃんの顔を見上げて、首が辛くて戻した。
大好きな似ていない顔がそこにあった。

この身体に同じ血が巡るのを愛しく思うし
それを作り出す心臓が兄ちゃんを見る度跳ねるのが憎く思う

同じ細胞でできているのだから


「? 由太郎?」

背中に飛びついてその温もりを貪るようにきつく抱きしめた。自分の短い腕なんかじゃ、やっと肩を抱けるだけで大きな身体を包めやしない。呼吸を、なんとか整えようとすると息を吐く度肩が震えた。
愛しい熱。
同じ、細胞。
回した腕に、兄ちゃんの大きな手が被さった。

「兄ちゃん、あったかいね。」
「寒いのか?由太郎」
「ううん。違う。」

旧式のストーブは、うなり声を上げるように激しく燃え上がっている。
火と火がパチッと弾ける。耳元では大きな体に流れるノイズのような血流の音。
ふうっと瞼を伏せると、兄ちゃんの手がそっと下がってまたノートに向かった。

冬は何たって苦手で


「ねえ、今日、良い?」


寒さと寂しさと、あまり考えないようにしてるものとか
自分に都合の悪いものと都合を悪くさせるもの、を思い出させたりするんだ。


「…父上も母上も居るだろう。」
「俺声ださないから、ねえ?」


困らせるつもりじゃなかったんだけど
結果的にいつもやっぱりそうなっちゃって
きつく結んだ真一文字の兄ちゃんの唇を、許してもらえるようにそっとキスをした。

いつもならキスでさえ、布団の中でしかしない。
父ちゃんと母ちゃんを、万一でも悲しませるような事は絶対にしたくないから。
ばれなきゃいいんだなんて考えは、ばれなきゃ同じだよ。

「由太郎。」
「お願い、今はキスだけで良いから。」

真一文字の唇が開かれる。
小さな溜め息がおでこにかかる。
大好きな無骨な手が、頬にふれてくれる。
顔が近づく。

この瞬間で世界も時間も止まってしまえば良い。
俺も兄ちゃんも考えてる事は世界に一つしかなくて
その期待で俺の気持ちは溢れそうなくらいいっぱいで
幸せで幸せで、自分に都合の悪い、よけいなモノとかなにも考えないで済むじゃないか



「由太郎、お前は冬に弱すぎる。」
「違う、兄ちゃんが好きなんだ。」



ひゅん、と入り込んだ細い隙間風に身を震わせた。
冬なんてこなけりゃいい




これがあなたの体温




















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