大きくて長い腕を広げて、小さい僕を抱え込んだ。
守ってやるよ、とあの人はいう
――――なにを、だれを、なにから?
腕は僕には広すぎる







「なんてネガティブなガキだ!」
放っておいて下さいアンタみたいな騒がしい人とは合わないことなんて解ってます。第一印象は最悪、野球が好きでなかったらこんな人一生付き合いがないんだろう。文句の一つも口にせずただ目を細くしてジロリとあの人を見た。
さぞやさぞや生意気な後輩だったと思う(今も)
だけどあの人は、それを見てまたゲラゲラと品なく笑った。
「粋はあるじゃねえか」
粋もプライドも、僕にとっちゃどってことない。
あの人はそれから何かと僕に構うようになった。








「俺さあー海いきてえの。な、今度の日曜一緒にいかね?沖。」
「やです。いきません。」
あんまりにもスムーズに出た返答。
あの人は表情をちっとも崩すことなく、へらへらと笑ったまま続ける。
「冬の海はいいぜ。俺さ、バイクあんの学校には内緒だけど。うしろのっけてやっからよ。」
「なにを馬鹿な…50ccじゃないんですか。」
「裏道通ってくんだよ。スリルなデート、しようぜ。」
デートですって?馬鹿な。
会話の中で僕はその海行きを8回は断った。だけど最後にはあの人は「じゃあ日曜な」とか言い残して去った。
嫌だよ寒いし面倒くさいし楽しくない。男と二人乗りしてなにが楽しいものか。


あの人の―――小饂飩先輩の単車には、ちょっと前にユタが乗らせてもらったと言っていた。
ユタはものすごく興奮しながら単車の爽快なスピードの良さを語ってくれた。
僕は面倒であんまりその時は聞いちゃいなかったけど
なんだ今になってそのことが憎くなる。
―――誰だっていいんじゃないか。ユタを誘えばいいのに。
なんで僕が。なんで僕を。
冬の海は荒れる


「それは俺がお前のこと気に入っちゃってるからです。」
「迷惑です…。」
小饂飩先輩はすこし困った顔で笑った。そんな顔したって。
大きな手が僕の帽子に被さる。本当に大きくて僕の帽子を全部包めてしまえそうだった。
荒く撫でられるとその帽子がずれて、先輩の表情が読み取れなくなった。
「おめえが信じようと信じまいと、いいけどよ。」
先輩の声が低く震えた。
「目ぇそらしちゃなんねえぞ。」
何を言ってるのか。
帽子を持ち上げようとしたが嫌味な力で撫でているものだから中々あがらない。
やっとのことで少しずらすと、先輩は見えなかった。逆光していた。
幾筋の光が漏れて、先輩はすごく見えにくかったけど
頭上にある掌からのびた腕はあんまりにも長く、太く、大きく見えた。

守ってやるよ、全部。
だけど、目ぇそらすなよ。気持ちだけは。
だから絶対怖がんな。

長い腕で僕を包む。なんで僕が。なんで僕を。
言っていることがわかりませんと言うと、先輩は短くため息をついて言った。
いくぞ
「俺はおめえが好きだ。」
「…それならそうと言えばいいじゃないですか。」
帽子がずれたけど腕の中にいるせいで先輩の顔は見れない。
僕はただ太陽が眩しかった。先輩が動いたせいで、僕は肩ごしからまともに浴びることになってしまった。

―――涙が出そうだ。
あの早急な人が気持ちをぶつけるより先に
怖がらなくていいと、僕の踏み台を用意してくれたこと。
目は見ずに抱きしめてくれたこと。
だけど気付きかけた自分の感情に、自分よりも早くこの人が察してしまったことがたまらなく嫌でめちゃくちゃ恥ずかしかった。
だから素直に「はい」とは言えない。



「先輩、海、行ってあげます。」
単車はやめて歩いていきましょう
冬の海の風からも守ってくれるのなら









ゴートゥー・

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