誰かがルールをやぶりたがる
誰もがそれを非難すれば
誰もが、すばらしい人間に
誰かが、避難される側の人間に








ぎゅうって抱きしめてもらう時
幸せで死にそうで、心臓が猛烈に動いて息ができない
すき、すき、大好き。兄ちゃんが好き。
初めて抱きしめてもらったときは、暗い夜道だった
あのときはそれどころじゃなくて、自分のことに必死で
だからこうして明るい光の下で抱きしめてもらうのはまだ慣れない。
寝間着のように薄い服で相手の体温をよく感じてしまうと、なおさら。

兄ちゃんの手が頬を滑る
驚いて大げさに身をすくめてしまった
キスがくる 珍しい 兄ちゃん顔ちょっと赤い
こうして兄ちゃんの細くて奇麗な目でじっと見られることは苦手で
俺はいつもすぐに目を瞑ってしまうから、未だにキスする瞬間の兄ちゃんの顔をみたことがない。
兄ちゃんはどうなんだろう。その瞬間も俺を見てるのだろうか。顔赤くし過ぎて不細工にはなってないだろうか。

「兄ちゃん、キスするとき俺の顔見る?」
兄ちゃんの顔の赤みが増した気がした。
「たまに見るが、どうした?」
「俺ぶさいくじゃないかなあ。」
「なにを」
戯言だと思って適当に頭を撫でて言葉を濁したにいちゃんを、キっと見つめると
本気で聞いていると思ってくれたのかちいさくせき払いをして言い直した。
「いらぬ心配だ。」
「本当?」
兄ちゃんは微笑んで頭をもう一度撫でる。




「由太郎は、可愛い。」

う、わ
その言葉に顔が一瞬で火照った。
言い慣れてない、聞き慣れてないことが明らかで兄ちゃんも憮然として照れくさそうに頭を掻いている。
珍しいこともあるもんだ。兄の口からは一生聞けないと思っていた言葉だ。

しばらく目を合わせられずに居た後、どうしたものかと彷徨った手を兄ちゃんが掴んでその胸の中に倒れるように飛び込んだ。
慣れない「ぎゅう」に愛はつまってて、くすぐったくてくすくす笑いが零れる。
ああ兄ちゃんが好きだなあ。一度自分から兄ちゃんの鼻にキスをすると、今度は兄ちゃんから唇に一度短いキス。それから大人めのキス。こんなにたくさんするのも珍しい。一回じゃ足らない。キスだけじゃ足りない。もっと もっと


「食べたいくらい好きって、こういうことなのかな。」
「お前が言うなら逆だ。」
「ねえ、兄ちゃん。大好き。もうどうしようもなくてどうしようもなかったら、どうしたらいい?」
一瞬兄ちゃんの目が見開かれた後、2、3躊躇してもう一度キスをした。
頬に掛けた手が首筋を滑って肩がひくりと反応した。
寝間着の掛け紐がぎこちない手つきでほどかれる
恥ずかしくって恥ずかしくって見ちゃいられなかったけど、朦朧としてただぼんやり見つめる体制になってしまっていた。
膝に置かれた手がじんわりと熱い。





甚論







「…大好…き」

兄ちゃんの大きな手が体中を彷徨う
それに逐一反応して自分の言葉は情けなく切れ切れに震える
―――ああ痛いな。手で締め付けられた手首も、膝も腰も
痛いの嫌いなのに、こんなに涙と幸せがあふれるなんて

愛情に犯されて自分は壊れてしまったんだ
弦がプゥンと切れる音をいつか聞いた。


夢ではなかろうか夢ではないだろうか
外の雨の音も風で窓が軋む音もなにも遮断されたこの部屋で
兄ちゃんの熱と俺の涙は限界までいっぱいになって全部真っ白だった。
たえきれない愛情で溢れて今は今だけは自分に都合の悪いことも常識を叫ぶ脳も全部消すことができる。

ただ痛覚だけが涙を押し上げて、とまらない 想いも
想いだけが鋭く突き刺した
あのままで幸せだった間違いないはずだっただけど最大を求めてしまった
優しい兄の、線を越えてしまった僅かな後悔と莫大な罪悪感
鋭く鋭く、なんども指しては自分を最後までこの部屋に埋没させることができなくて
涙があふれて止まらない。
涙があふれて止まらない。





この最後の線を、兄は最後まで守りたかったはずだ。この最後の線を。
「兄ちゃん、そんな目しないで。」
「そんな…優しくしな…でよ。」

欲の塊も、涙と一緒に溢れて




自分は壊れてしまった
壊れて消えてしまった
最後の愛情
兄を想うあまりの兄を思う心

これで俺は勝手で最低で世界の中心どころか親族の目の前で兄ちゃんに愛を誓える人間に
そして愛を誓う想像の中の自分の笑顔を想像して今も嬉しみが隠せない。ごめんね



兄は今でも守り続けている
愛情と、理性と、俺
甘えてそれに甘えて痛くて居たくて
俺は最後まで貫き通せなくてごめんね
守ってあげれなくてごめんね いつだって




もう自分にできることは、誰よりも真っすぐに兄を愛せること
自分だけが、これ以上無く幸せなのだ







誰かがルールをやぶりたがる
誰もがそれを非難すれば
誰もが、すばらしい人間に
誰かが、避難される側の人間に

誰かが、世界で一番幸福な人間に



































SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送