「抱っこしてもいいか?」
今更何を言うんですあなたはそんなこと聞くキャラじゃないでしょう
「キスしてもいいか?」
…おでこまでなら
「してもいい?」
それはダメ。


マイスウィートダーリン*ダーリン








本当におかしな人だと思った。恥も外聞もかなぐりすてたような人で、試合中だろうが授業中だろうが放送禁止用語を並び立てて喋っていつだって周りが迷惑して誰もが大胆不敵なやつだと思っていたはずだ。
僕のことを気に入っていると言ったことも変なやつだと思った。対極にあるような性格だ、絶対に由太郎の方が気が合う。
僕のことを好きだと言った。変なやつ以上だ、どうかしてるんじゃないか。最近まで僕はそれを疑っていた。




「なあ沖、お前さ、うどん先輩とつき合ってて大丈夫か?」
「…何?」
由太郎の目は真剣だった。だから言いたいことは手に取るように解る。
先輩は由太郎のことをかわいがってるし、ユタも先輩の中ではあの人と一番仲がいい。
そして、ユタは僕の親友。
だからきっといい人とは思っていても、僕に取ってあの人が「いい人」であってくれてるのか心配してるんだろう。
「ちゃんと優しくしてくれてるか?」
「…ユタ、心配しなくていいよ。」
「無理することないんだからな。俺うどん先輩のこと信用してるけど、沖のほうが心配だし!」
…だから心配しなくっていいって。
小さくため息を吐く。
本当、とびきり優しいんだから。
「大丈夫。それなりになんとかなってるし…。」
由太郎は曖昧な僕の返答に納得いかない様子で、キラキラ大きい目をぐっと歪ませた。
たとえ順風満帆最高の相性で問題なんか何も無くても、僕が「ラブラブだから、全然大丈夫!」とでもいうと思っているのだろうか。
これが僕の精いっぱいだよ、察してユタ。
「なんかヤなことあったら、いつでも言えよな。」
「うん、ありがとう。」
察してくれたかはどうかはわからないけど、話を引いてくれて正直ほっとした。






大丈夫、とびきり優しいから。


本当に驚くぐらい。あれはいったい誰なのか、何度思ったことか。
部活中に下世話な話題でからかったり、誰彼構わず抱きついて監督の一喝をうけたり、R指定の本が学校にみつかって没収されてもケロリとして笑い話にしていたような人ではないか。

指先が震えていたのは何?
声がうわずっていたのは誰?
その赤い顔は、どうして?

抱きしめる時は必ず問う
その度に恥ずかしくて「いい」と言った覚えはないけど、横に振らなければ勝手に解釈してくれる。
指先が震えてるよ。
心臓が爆発しそうなぐらいうるさいです。
つられて自分の脈も、珍しく活発に動き出す。



「あったけえー…幸せ。」
「…部室なんですけど。」
「誰も来ねえよ。…嫌か?」
なんでわざわざ聞くんですか。
腕をおずおずと背中にまわす。
それだけで勝手に解釈してくれる。
先輩の腕の力がいっそう強くなった。

「えーっと、あのさ、」
調子のってわりいけど、とかなんか惨めな声出して
顔色をうかがうように問う。
「キスしてもいい?」
珍しく頬が紅潮して、でも僕は多分もっと赤くなって、どっちの心臓もうるさくてぎゅっと目を閉じた。
あっしまった。これも勝手に解釈されるかも
急いで目を開けたら、信じられないほど近くに先輩の顔は来ていた。
どっちも目を見開いたまましばらく固まってた。
「え、あ、駄目?」
「…もう、なんでいちいち聞くんですか。」
「そりゃあだって。」
「好きにすればいいじゃないですか。」
「えっ」
「僕キスされるのが嫌な人にこうやって抱きしめられたりしません。」
「はっ、だってそれとこれとは別物で。」
どもりちらす先輩に苛々して、眉を寄せるともっと焦っていた。
違うそうじゃなくて。ちゃんとあなたはぼくはちゃんと

「少しは自信もったらどうです。」
「え」
「僕はちゃんと」




過去最大の、僕の失言だったと思わざるを得まい

















「おはよう沖ちゃん、今日も愛してるぜ!」
「……。」
その後から、一変したとまではいかなくても態度は格段に違った。嫌な方向に。
由太郎は先輩に挨拶をしつつも、心配そうな目でこちらをチラチラと見てくる。
ああそうだよ困ってるんだ本当に心配させることを作ってしまった。僕が。
だけど実際に行動が、豹変するようなことはなくて相変わらずキスも抱きしめるときもお伺いをたてるし、ただそれの頻度が格段に上がっただけで。
それを思うとあの人は随分と気を使っていたんだと思った。元々旺盛で率直で感情に素直すぎる人だ。こうであらないはずがない。

「あのさ沖、なんかちょっと違うくなったっていうか…俺首突っ込むところじゃないかも知んねえけど。」
「うん…ちょっとね。」
失敗しちゃって。
「平気か?」

平気か?
もちろん

相変わらずキスはお伺いをたてるし
抱きしめる手は震えてるし
顔は赤くて言葉もとちるけど


こんなに優しいひとを僕は知らない。



「大事にされてるよ。」
「ええっ本当か沖!ってゆか、沖じゃねえみたいな言葉だな。」
一日に三桁は放送禁止用語を連発するような人で
煩くて短慮でおおよそ考えることには向いてなくて
明るくて素直で誰からも憎まれたりしない、恵まれた人

誰よりも僕を大切に大切にしてくれる人
僕はちゃんと、あなたが好きです。
































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