モナリザ





ぼんやりと無機質な足を擦る。布と神経の通わない足が擦れあう感触は何も無くて、まるでリアルなおもちゃを撫でているようだった。自分のものと思えないそれが気に食わなくて、リハビリはさぼりがち。代わりに暇があれば手元に転がっているダンベルで腕筋だけは鍛えたり、興味の無かった本を手に取ったりしていた。知識は身に付きそうだ。大半は気怠くて、シンプルなベットに四肢をだらしなく放り出し、眠るわけでもなくぼんやりと時間を流していた。
放り出しっぱなしの携帯は電池が半分消費されていた。特に使ったわけでもないが、もう丸3日充電していない。リダイヤル記録の一番上は彼。その次も彼。次が本部、沙羅…また彼。記録のおよそ3分の1は携帯嫌いな黄雅のもの。僕は今指一つ動かせば、彼を此処に呼ぶことができるのだ。きっとすました顔で乱暴にドアを開け、彼の持つ最速のスピードでこの部屋まで来てくれるに違いない。豊かな髪が振り乱れる様を想像してふと笑った。
とりあえず、この本を返さなければ。なかなか読みやすくて面白い本だった。そう告げて笑えばきっと彼も胸を撫で下ろして笑い返してくれるんだろう。きっともっとおもしろい本を探して持ってきてくれる。なんだか喉が渇いた。お茶でも強請ろうかなあ。
嫌気がしてカラカラに渇いていて、所有者が僕じゃないことも忘れて薄いその本を力一杯投げ付けた。半分開いた状態で壁にぶつかった本はそのまま落ち、きっと数ページくらい中折れしてしまっているだろう。
急いでシーツを掴み 寄せ 顔を伏した。
ムカムカして落ち着かなくて全身が内側からむず痒くなる。くしゃくしゃに歪んだ顔はとてもじゃないけど愛しい彼には見せられなくて、唇を噛んで目蓋を閉じた。今さらながら彼を本気で愛してる事を思い知る。そう思うと込み上げてくる焦燥や憤怒は少しだけ治まり、せめて自分だけは、鏡の向こうの自分の顔をよくよく覚えておこうと思った。






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