終日禁煙 「・・・苦い。」 万尊は赤のマルボロを愛用していた。それをよく知っていたから、廊下で捨て置かれたそれを見つけた時にきっと彼のものだろうと確信を持った。 案の定所有者は万尊で、届けると安心したように笑った。そして、礼に一本どうだと薦められたのだ。 「煙草、僕も吸っていたから別に反対するわけじゃないけど。」 特に美味い、と感じるわけでもなかったと言う。ハルナが喫煙していたのは興味を持った18から21の3年間。依存するにはおよばず、無ければ無いでいいと無頓着に答えた。唇が、ハルナのそれに触れた。 「うん・・・苦い。こんなに苦くなるもんだったんだね。」 特に興味があるわけでもなかったが、喫煙したことがないと言えば嘘になる。万尊に薦められたことと、久しく味を再確認しようかと自然にそれに手が伸びた。 久しい味は変わりなく、強いて言うならマルボロは少しきつかった。ライトスモーカーだったのだ。せっかくなのできっちりフィルター近くまでは吸いきり、火を消した直後ばったりハルナに会い、いつもどおりキスをせがまれた。 しぶしぶ軽く唇を落とすと、大人しくしていたハルナが急に体中を嗅ぎ回り、冒頭の台詞を吐いた。 「なんだかヘンな感じ。」 「変?」 「黄雅じゃないみたい。」 自分と煙草のイメージがあわず、他の誰かとキスを交わしてるような感覚だといった。その発言に少し眉を寄せた。 「あ、ごめん気ぃ悪くさせた?」 謝罪をしつつも嬉しそうに微笑むハルナには、どうして怒気も失せて、細いため息で肩を落とした。不意に肩をつかまれ引き寄せられ、唇に慣れた暖かいそれが触れる。ハルナは腕を首に回すとより深いキスを求め、少しだけ開けた唇から赤い舌をちらちらと覗かせていた。暗黙の了解のようなもので、応じて唇をこじ開けさせ、舌を差し入れ十分に口内で暴れ回った。 「んっ・・・う。」 銀の糸が名残惜しむようにだらしなく伸び、ハルナの細い舌がそれを拭うように唇を舐めるとひどく妖艶に映った。 「ほら消えた・・・。」 「?」 「一本くらいなら、ディープキス一回で消えると思ったんだ。」 それが煙草の匂いのことだと気付くのに時間がかかった。そのあいだにハルナは軽いキスを3回ほど頬と唇に落としていた。 「ハルナ。」 「うんー?」 「本当は、煙草が嫌いなんじゃないのか?」 そう訪ねるとハルナはきょんと顔をあげ、しばらく首を傾げてうーん、と考え込んだ。 「自分が吸っていたから、嫌いなわけじゃないと思う。ただね。」 黄雅の匂いがかき消されるのが嫌なんだよ |
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