And yet,There will still be love this world






───シワシワシワ
窓の外には蝉が、うだるような暑さに負けじと
弱々しくも声を上げていた。
広げた腕にも足にも、閉じた目蓋にも
強い日照りは容赦なく肌を焼き
目を伏せた赤い世界はどこか次元がちがうような
蝉の声も風も衣擦れも自分の呼吸でさえ
一段ずれたオブラートの世界に居るようで
全てが薄い壁に塞がれた感覚がした。
指先の神経は麻痺したように、
自分の意志どおりには動いてくれない。
目蓋は鉛のように重く、もう開ける気もない。
目を開いても、きっと見えるのはあの世界。
ああまた帰ってきてしまったのかと脱力するよりも
まだ許された時間、この次元で溶けてしまった方が楽だ。


目蓋の向こうは酷く赤い世界がきっと今日も渦巻いている。
この爪の先から、足元からどろりと消えて
修正液のように溶けて固まればいいのに。
けれども唯一それが物理的に出来る男は
それを望んでると言えば烈火の如く怒り狂うから
結局自分は彼に甘く
結局またこの世界に帰ってくる。
ただ救われることは、目蓋の向こうに彼が居るならば
視界が広げた瞬間に彼が目前に居れば
不思議な事に真っ赤な世界が、様々な情報を取り戻す。


「おはよう、黄雅。」


それがなんとも、自分がこの世界を捨てきれない原因である。







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