ジラルの花






机の上の花瓶の花は
先日シーツを換える際に下働きのものが置いていったもの
殺風景ですから、と他愛の無い理由で置かれた花は思ったより存在感が引き立ち、彩りと言うものが随分栄えた気がする。
それには満足していた。がある日、花瓶ごと花は消えた。
枯れるには早い、場所を移したのかと思ったが
部屋の奥に座るハルナの前には、花瓶と半分に減った花があった。
ハルナが手を触れると、花はどろりと跡形も無く消えた。
一本ずつ、丁寧にそれを消す作業を繰り返していた。
その目は無心で、空虚で、話しかける声がつまるほど。
何も映さないハルナの目は自分を映す事もなかったのか
どちらも話しかける事無くしばらく――ものの数分だが立ち尽くしていた。
そう言えばハルナと花を一緒に見るのはこれが初めてのような気がする。
いつもは、どうだったか。おかしな話だ、殺風景なここでも広間には大きな花が生けられている
それがどうにも記憶の中でハルナと一致しない。
ハルナの部屋に花が飾られた事はもちろんない。
もしかしたら、飾られた事があっても
今みたいに丁寧に溶かしていたのかもしれない。
花が嫌いという話は聞いた事が無い。
アレルギーを持つような男には到底見えない。
花に優しく触れる佇まいは、あのダイアナスの花を摘むようにあまりにも優しい表情を浮かべているのに
細められた目には何も映っていない。
花が嫌いと言う話は聞いた事が無い。
花が別段似合わない男という訳ではない。
恐ろしいほどの違和感、それだけで
どうにも、彼とそれが重ならないのだ。


「奇麗でしょ。」
金縛りを解く呪文のように響いた声は、溶けた花の溶液に輪を作った。
水みたいに透明で、さらさらしてて。と、
それは花瓶の中に残った数本の花ではなく花の溶液の事を指していた。
「人は重くて、汚くて、臭い。ドロドロして手間がかかる。
蒸発もしないから処理しないと騒ぎが起こるし本当面倒。」
ため息を吐いて花の溶液に指をひたすハルナの顔は元のハルナのままなのに
指についた水滴を見て微笑むのだ。
「花って大好き。」
とにかくこれからは、彼にあげる土産もプレゼントも花はやめにしよう。
(あげたことはないが)









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